今日、大学、研究所などの教育・研究機関で刊行される研究紀要、報告は、文系、理系を含め
て膨大な数に昇り、一個人が、一分野に限っても網羅的に眼を通すことなど不可能に近いと思う。
日本語学(旧 国語学)、英語学、中国関係の『論説資料』シリーズが、大きな価値・力を発
揮するのは、此の時である。
私は、インド・チベット仏教史を研究分野としているので、シルクロード、敦煌学を含めて、
所謂、シナ学の分野は、研究論文、調査報告などで少しでも近ずこうとするのであるが、
この『中国関係論説資料』は、創刊以来50年間に亘る専攻論文を、切れ目なく検索・参照でき
るので、本当に有り難い事であると思う。
各年度ごとに、『中国関係論説資料』と「収録論文一覧」が刊行されるが、
全体は、
第1分冊(哲学・宗教) 上、下、増刊
第2分冊(文学・語学) 上、下、増刊
第3分冊(歴史・政治・経済I) 上、下、増刊
第4分冊(歴史・政治・経済II) 上、下、増刊
よりなる。私は、先ず、「収録論文一覧」を通覧するのが楽しみである。
歴史的にも、地域的にも、とてつもなく長く広い領域を持ち、関わる分野の研究業績をこの様
な形で利用できるのである(2000年からは、CD−ROMの利用も可能となり、有用性を増した)。
創始者であられる向坂正一さんが、熱い信念のもとに、掲載の許可などにも大変な労苦を重ね
られて、昭和40〈1965〉年に創刊なさった当時のことは、私の恩師(羽田野伯猷先生)が、
向坂さんの旧制四高時代の先輩ということもあって親交を持たれていたので、私も先生から側聞
していた。
当時、研究室で進めていたチベット仏典研究叢書(梵/蔵・漢対照テキスト)の出版の際には、
『楞伽経』、『瑜伽師地論菩薩地』の漢訳の写植は全て、向坂さんに打ち出していただいた。
此のことは、今でも心から感謝申し上げたい。